
Coinbase Wrapped BTC
CBBTC#27
1. 起源・目的・経済的役割
Coinbase Wrapped BTC (cbBTC) は、Coinbase が発行するカストディ型のラップドビットコイントークンであり、Coinbase が保有する BTC によって 1:1 で裏付けされています。これは、ユーザーが BTC を別の資産に売却することなく、主に Ethereum の DeFi スタックなどのスマートコントラクトエコシステムの内部でビットコインを利用できるように設計されています。cbBTC が取り組む中核的な問題は構造的かつ持続的なものであり、ビットコインのネイティブチェーンは汎用的な DeFi 向けには設計されていない一方で、多くの DeFi の流動性・レンディング市場・担保フレームワークは依然として EVM エコシステムに集中しているという点にあります。
現在の市場ポジション(提供された数値ベース):
- 時価総額: 約 69.5 億ドル
- 価格: 約 90,385 ドル(cbBTC は BTC を 1:1 でトラッキングすることを意図)
- 裏付け/TVL の代理指標: DefiLlama は、cbBTC を裏付ける BTC 担保としての「Coinbase BTC」の TVL を約 63.6 億ドルとしてトラッキングしています(方法論: 担保裏付け)。(defillama.com)
オンチェーンでのフットプリントと採用状況(観測可能だが断片的):
- cbBTC は複数ネットワークで発行されており、Coinbase は Base・Ethereum・Solana・Arbitrum のアドレスを公開しています。(coinbase.com)
- Base 上では、DefiLlama の「Bridged TVL」テーブルにおいて cbBTC(ABASCBBTC として記載)が注目すべきブリッジ資産の 1 つとして掲載されており、他のブリッジトークンと比較しても、そのチェーン上に有意な残高が展開されていることが示されています。(defillama.com)
なぜ今重要なのか:
- BTC は依然として最大かつ最も広く保有されている暗号資産ですが、レンディング・レバレッジ・流動性供給・ストラクチャードプロダクトといったオンチェーンでの金融活動の多くは Bitcoin L1 の外側で行われています。
- ラップド BTC カテゴリは、既存の主要なラップド BTC(特に WBTC)をめぐるカウンターパーティおよびガバナンス上の論点によっても形作られています。Coinbase の参入は、新たな大手発行者として、規制された機関カストディブランドを提供するものであり、許容可能な担保ソースを評価するファンドやリスク委員会にとって重要な意味を持ちます。(WBTC のガバナンス/カウンターパーティ変更をめぐる市場議論は広く取り上げられており、その文脈で cbBTC は代替案として語られることが多くなっています。)(coinmarketcap.com)
2. 歴史的な起源と初期開発
ローンチ時期と背景。 Coinbase は、2024 年 9 月 12 日に cbBTC のローンチを発表し、まず Ethereum と Base 上で提供を開始し、その後他ネットワークへの拡大を計画しました。(coinbase.com) このタイミングは、2022 年以降の DeFi のフェーズに位置付けられます。資本は再び流入したものの、度重なるブリッジの障害や中央集権的カウンターパーティの崩壊を経て、準備金・ガバナンス・オペレーショナルリスクに対する監視が一層厳しくなった局面です。
プロジェクトが生まれた理由:
- 経済的ドライバー: DeFi における BTC 建て担保(レンディング、ステーブルコイン借入、ベーシストレード、流動性供給)への需要。
- 技術的ドライバー: EVM エコシステム(Ethereum と Base・Arbitrum のような L2)は依然として、コンポーザブルな DeFi の最も深いマーケットである一方、Bitcoin L1 のスループットとプログラマビリティには制約があります。
- 制度的ドライバー: DeFi 利用がプロフェッショナル化するにつれ、大口のアロケーターは、ラップド BTC をカストディ・アテステーション・償還プロセス・法的強制力といった観点から評価するようになっています。
起点となるチーム/発行主体。 cbBTC は一般的な意味での分散型プロトコルではなく、Coinbase による発行者プロダクトです。「創業者」という問いは、「Coinbase が、ミント/バーン、カストディ、顧客向け償還ワークフローを担う中央集権的オペレーターである」と捉えた方が適切です。Coinbase はまた、プロダクトロードマップの一環として 準備金のプルーフ・オブ・リザーブの透明性を提供する意向を強調しています。(coinbase.com)
暗号資産史の中での位置付け。 cbBTC は、初期のラップド BTC(たとえば WBTC)がプロダクトマーケットフィットを証明した後に登場した、より成熟した第 2 世代のラップド資産に属します。同時にそれらは、カストディ型のラッパーは取引所/カストディアンリスクを引き継ぐこと、そして信頼できるガバナンスおよび開示体制が必要であることも示しました。また、Coinbase が明確に Base を主要な流通レールとして用いていることから、L2 スケーリング時代との接点も持ちます。(coinbase.com)
3. プロトコルの仕組み: テクノロジーとアーキテクチャ
cbBTC のメカニズムは、分散型ブリッジというよりも、償還可能なトークン化 IOU に近い構造です。主要な構成要素は次の通りです。
ネットワーク / インフラ
Coinbase は、以下のネットワークでの cbBTC 発行を公開しています:
- Ethereum(ERC-20)
- Base(ERC-20)
- Arbitrum(ERC-20)
- Solana(SPL トークン) (coinbase.com)
(提供されたコントラクトリストは、Coinbase が公開しているアドレスと一致しています。)
セキュリティモデル: cbBTC を実際に担保しているもの
cbBTC のセキュリティは主に次の要素から成ります:
- BTC 準備金のカストディ(オフチェーン): Coinbase は、発行済み cbBTC に対応する BTC を保有しており、Coinbase のカストディインフラ(Coinbase の開示によればコールドストレージを含む)を用いて管理します。
- スマートコントラクトの正当性(オンチェーン): ERC-20/SPL コントラクト自体のリスクに加え、cbBTC を受け入れる DeFi プロトコルとの統合リスクがあります。
- オペレーション管理: Coinbase 内部でのミント/バーンプロセスおよび内部統制。
トラストミニマイズドなブリッジとは異なり、cbBTC は準備金管理のために外部バリデータセットや分散型フェデレーションに依存していません。その代わりに、Coinbase の支払い能力とオペレーションの健全性、および償還の実行可能性に依拠しています。
ミントとバーン(発行 / 償還)
Coinbase は、Coinbase ユーザー向けに密接に統合されたフローを説明しています:
- Coinbase ユーザーが Coinbase から Base または Ethereum 上のオンチェーンアドレスへ BTC を送金すると、それは 1:1 で cbBTC に変換されます。
- ユーザーが cbBTC を Coinbase アカウントで受け取ると、それは 1:1 で BTC に変換されます。
- Coinbase はまた、cbBTC に関して、Coinbase 取引所上に独立したオーダーブック/取引ペアは存在しないと明記しており(二次流通は DEX や第三者の取引所で行われうる)、その点も強調しています。(coinbase.com)
プロトコルの観点からは、供給量はラップ/アンラップ需要の純増減に応じて拡大/縮小することを意味し、エミッションやステーキング報酬、アルゴリズム的メカニズムによって変動するわけではありません。
実務的に重要となるアーキテクチャ上の特徴
- コンポーザビリティ: cbBTC は標準的な ERC-20/SPL 資産として振る舞うように設計されており、既存の DeFi スタックの中で担保資産、LP 在庫、決済資産として利用できます。
- 発行者との連結: Coinbase は、大規模かつ中央集権的な BTC 流動性プールを、サードパーティブリッジではなく、発行者が管理するラッパーを通じて EVM レール(Base/Ethereum)に直接結びつけています。(coinbase.com)
4. 経済設計・供給メカニクス・トークンデザイン
供給構造
- cbBTC の供給は、完全裏付けかつ需要主導型(ラップ時にミント、アンラップ時にバーン)であることを意図しています。
- 通常のトークンの意味での「最大供給量」は存在せず、実務的な上限は、ユーザーがどれだけ BTC をラップするか(および Coinbase がどこまでオペレーション上対応するか)に依存します。
インセンティブと価値捕捉
cbBTC はトークン保有者にプロトコルフィーを還元する設計ではなく、BTC の表象として位置づけられています。ユーザー側の経済的な合理性は以下の通りです:
- BTC エクスポージャーを維持したまま、DeFi の利回り/ユーティリティ(レンディング利率、LP フィー、レバレッジ、ストラクチャードプロダクト)にアクセスすること。
Coinbase 側の経済的な合理性はより間接的であり:
- プロダクトのスティッキネス向上、オンチェーンレール(Base)採用の拡大、カストディ/プライム/ブローカレッジ系フローの成長ポテンシャル(cbBTC 自体がフィートークンでなくとも)などにあります。
集中度と分布の現実
- 発行者集中: 準備金は Coinbase によって管理されます。これは意図された設計選択ですが、単一の支配的カウンターパーティを生み出します。
- オンチェーン集中: 他のラップド BTC 資産と同様に、cbBTC も少数のレンディングマーケット、ボールト、ブリッジ、AMM プールに集中しうる資産です。この集中は、清算・オラクルイベント・プロトコルガバナンスの決定が、レバレッジポジションを通じて急速に波及しうるという点で重要です。
市場環境ごとの挙動
- 通常時には、cbBTC は BTC とほぼパリティで取引されることが想定されます。乖離は概ね次のような要因を反映します:
- 償還の摩擦(法域制限、KYC、償還までの時間)、
- 発行者/カストディリスクに対する市場認識、
- チェーン間でのオンチェーン流動性厚みと取引場の分断。
- ストレス局面では、たとえ準備金が健全であっても、市場参加者がカストディアンリスクや償還不能リスクを織り込むことで、ラップド資産がディスカウントで取引される可能性があります。
5. 実世界での採用・ユースケース・市場統合
cbBTC を利用するユーザー層
観測されるユーザー類型としては、概ね次のようなものがあります:
- DeFi ネイティブユーザー: BTC を保有しつつ、BTC エクスポージャーを維持したままステーブルコインを借りたり、流動性を供給したいユーザー。
- アービトラージャー / マーケットメイカー: 複数のチェーンや取引場間でパリティを維持する役割を担う参加者。
- 機関投資家やプロトレーダー(一部): 社内承認を前提に、大手かつ実績あるカストディアンが発行するラッパーを好む可能性のある参加者。
Coinbase のローンチ時のコミュニケーションでは、複数の DeFi 統合(ボールト、スワップ、オラクル、リスクサービス、RWA など)が列挙されており、独自アプリケーションを構築するというよりは、既存の DeFi「パイプ」に接続する分配戦略が中心であることが示されています。(coinbase.com)
価値が流れる場所
cbBTC は、いくつかの高頻度なパスウェイで利用される傾向があります:
- レンディングマーケットでの担保: BTC エクスポージャーを維持したまま、ステーブルコインや ETH を借りる用途。
- 流動性供給: BTC/ETH、BTC/ステーブルコインペアなどでの LP 活動。 手数料や、場合によってはインセンティブを得るため。
- クロスチェーン在庫(戦略が実行されているチェーンへ BTC 流動性を移動すること)。
有用な現実認識として、多くの経済活動は「決済」ではなく、ストラテジー駆動(キャリー、レバレッジ、流動性マイニング)である。ユーティリティは存在するものの、多くの場合、小売決済ではなく、レバレッジや利回り目標を仲介した形で発現している。
機関/エンタープライズによる採用
オンチェーン上で、公的かつ検証可能な「機関採用」を直接測定するのは通常難しい。より具体的な機関投資家向けの重要性としては、cbBTC の発行者が米国上場の大手取引所/カストディアンであり、そのプロダクト設計がすでに機関が用いているワークフロー(カストディ+償還)と整合的である点が挙げられる。これはリスクを除去するのではなく、その性質を変えるものである。
6. 規制、リスク、そして継続的な批判点
規制上のエクスポージャー
cbBTC は規制上のエクスポージャーを発行者に集中させる:
- Coinbase は、カストディ、消費者保護、制裁、開示に関する適用ルールの範囲内で事業を行わなければならない。政策変更(米国、英国、EEA など)は、ラップ/アンラップ機能の利用可能性を変えうる。
- Coinbase は、ローンチ時点で送金/受取の利用可能地域を明示的に限定した(例:米国ではニューヨーク州を除外し、加えて一部の国際地域を対象)。
これは、償還へのアクセスがトークンをパー近辺に保つうえで中核的であるため重要となる。
中央集権性とカウンターパーティ・リスク
主な批判点は単純である:cbBTC はトラストミニマイズドな BTC ではない。
主な依存要素には以下が含まれる:
- Coinbase のカストディおよびバランスシートの健全性(ソルベンシー・リスク)。
- オペレーション継続性(出金、コンバージョン、内部統制)。
- トークンコントラクトレベルでの凍結/ブラックリスト化機能の可能性(中央発行資産では一般的。これがどのように適用されるかは、コントラクトおよび発行者の開示から評価すべき)。
一部の DeFi ユーザーにとってはこれは許容範囲だが、他のユーザーにとっては BTC を保有する根本的な理由を損なう。
スマートコントラクトおよび統合リスク
Coinbase のカストディが健全であったとしても、cbBTC ユーザーは以下のリスクに直面する:
- cbBTC がデプロイされているレンディング市場、AMM、ボールト戦略、ブリッジの脆弱性、
- cbBTC 市場の厚みが、中央集権型取引所における BTC 現物市場よりも薄い場合のオラクル/価格操作リスク、
- 相関した担保シナリオにおける清算カスケード。
競合要因
cbBTC は以下と競合する:
- 他の既存のラップド BTC(WBTC)、
- 代替的な BTC 表現(tBTC その他の設計)、
- BTC をビットコインのセキュリティあるいはネイティブな決済により近づけようとするチェーンネイティブな BTCFi 設計や L2。
実務上、競争はブランドよりもむしろ、流動性の厚み、償還の信頼性、統合カバレッジをめぐるものになる。
7. 長期的な見通しと構造的課題
うまくいくために必要なこと:
- 持続的かつ信頼できるパリティ:ストレス下でも乖離を小さく保つため、cbBTC には深いセカンダリ流動性と信頼できる償還経路が必要。
- 透明性に対する期待:準備金証明および関連開示は、頻度、監査可能性、負債と資産の明確さといった点で機関水準を満たす必要がある。Coinbase は、準備金証明がロードマップとプロダクトの位置付けの一部であると述べている。
- DeFi のリスク管理成熟度:ラップド BTC がより大きなシステミック担保となるにつれ、BTC 担保に対するより保守的なリスクパラメータ(オラクル設計、キャップ、清算インセンティブ)へと、より広範な DeFi が移行し続ける必要がある。
それを構造的に制限しうるもの:
- 法域ごとのゲーティング:大規模なユーザー層が効率的にアンラップできない場合、cbBTC は償還可能な BTC クレームというより、よりサイロ化されたオンチェーン資産に近づいてしまう。
- 集中度:cbBTC が少数のプロトコルに過度に集中した場合、単一のエクスプロイトやパラメータの失敗が急激で非線形な損失を引き起こしうる。
- カストディ型ラッパーへの倦怠感:市場の一部は、複雑性や高い手数料を受け入れてでも、中央集権的発行者への依存を最小化する設計をますます好むようになっている。
次のフェーズの暗号インフラにおける位置づけ: cbBTC は、中央集権型カストディとオンチェーン・ファイナンスとの継続的な収斂の一部として理解するのがよい。すなわち、大きく受動的な資産(BTC)を、担保や流動性として機能しうるプログラム可能な環境に移動させるメカニズムである。DeFi が(より良い開示、統制、リスクツーリングにより)制度化を進めるなら、発行者バックのラップド資産は拡大するかもしれない。他方、次のフェーズが(ブリッジ崩壊や制裁リスクを受けて)トラストミニマイゼーションを優先するなら、cbBTC は普遍的なオンチェーン標準というより、明示的にパーミッションドな BTC 表現として大きな存在感を保つにとどまる可能性がある。
コントラクト参照(Coinbase により提供/公表されているもの):
- Base / Ethereum / Arbitrum:
0xcbb7c0000ab88b473b1f5afd9ef808440eed33bf - Solana:
cbbtcf3aa214zXHbiAZQwf4122FBYbraNdFqgw4iMij
必要であれば、「オペレーショナル・デューデリジェンス・チェックリスト」(準備金証明、償還条件、コントラクト・コントロール、凍結/ブラックリスト機能、主要な DeFi 統合の集中度など)を、社内リスクメモ風のスタイルで追記できる。
