Anthropicは、自社の生成AI「Claude」に対する新たな防御策により、いわゆる「蒸留攻撃」で抜き取られるデータ量を約90〜99%削減したと発表した。同社はあわせて、中国のAI企業 Z.ai(智譜) がClaudeをコピーしようとした事例を具体名で挙げた。
注目ポイント
- Anthropicは、新たな防御策によってClaudeから蒸留業者が取得できるデータを約90〜99%削減したと説明。
- 蒸留キャンペーンに関与したとみられる数万件規模のアカウントを停止。
- Z.ai(智譜)が、自社モデル「GLM-5.3」の開発過程でClaudeの蒸留を試みたと名指し。
Claudeの蒸留対策
Anthropicは10月12日(月)に公開したリサーチ投稿で、この数カ月間に実装してきた防御策の成果を詳細に示した。同社は、初期データでは新手法により蒸留業者が収集できるデータ量が約90〜99%減ったと説明した一方で、この効果がどれだけ長く続くかは不透明だと慎重な見方も示している。防御の中核は、Claudeが回答前に内部で生成する「推論プロセス」(ステップごとの思考ログ)の保護にある。
最新のClaude Fable 5.1およびClaude Opus 5.5では、8月31日以降に作成された新規APIアカウントからは、Claudeの過去コンテキストを書き換えられないようにした。この機能はAnthropicが「preserved thinking(思考の保全)」と呼ぶものだ。さらに新たな2段階分類器を導入し、偽陽性率0.1%未満の精度で抽出試行をブロックできるようにした結果、蒸留業者が抜き取れる推論トークンは従来比で10〜100分の1に減ったとしている。
またAnthropicは、相互に紐づいた数万件規模のアカウントを停止したと明かし、多くは活動開始から2時間以内に遮断したという。
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Z.aiへの蒸留疑惑
蒸留とは、より強力なモデルの回答を学習データとして用い、小型モデルを訓練する手法だ。OpenAIやGoogleを含む大手各社は、これにより競合他社が高度な能力を安価かつ短期間で模倣できてしまうと警鐘を鳴らしている。とりわけ価値が高いのは推論過程のログであり、Anthropicが自社で行ったテストでは、Claudeの完全な推論ログを使って訓練したモデルは、コード自動生成のベンチマーク「SWE-bench Verified」で80.4%のスコアを記録したのに対し、要約のみを使った場合は71.8%にとどまったという。
同社は、こうしたコピーが安全保障上のリスクを伴うと警告している。蒸留によって生まれたモデルは、オリジナルほどの安全対策を備えないまま一般公開されるケースが多いためだ。Anthropicによると、Z.ai(智譜)はGLM-5.3の開発過程でClaude Fable 5の蒸留を試み、その後、サイバー防御の強化によって攻撃効率が落ちると、より古いClaudeモデルや他社ラボのモデルへと切り替えたという。Z.ai側は、コメントの要請に即時には応じなかった。
なお、これらの数値については現時点で第三者による検証は行われていない。Anthropicは同時に、こうした防御策にはトレードオフもあると認めている。具体的には、潜在的な売上の逸失、一部開発者に求められるインテグレーション変更、正当なリクエストがまれにブロックされる問題、そしてブロックされたリクエストにも課金を再開したこと(9月24日付)などだ。
今回の発表は、ここ数カ月にわたる一連の疑惑の延長線上にある。Anthropicは2月、DeepSeek、Moonshot AI、MiniMaxの3社が、およそ2万4,000件の不正アカウントを使い、合計1,600万件超のClaudeとの対話を生成して自社モデルの性能向上に利用したと非難した。
さらに9月17日には、米国標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology、NIST)の評価チームが、Z.aiのGLM-5.3を「これまで公開された中で最もサイバー能力の高いオープンウェイトモデル」と評価した。ただし、最先端の米国フロンティアモデルと比べると依然として約4カ月分の性能ギャップがあるとされる。

