Physical AI向け「複利型データエンジン」を手掛けるAxis Roboticsは、Hack VCをリードインベスターとするシードラウンドで1,200万ドル(約19億円)を調達した。Nomad Capital、Pi Network Ventures、10K Venturesに加え、複数のエンジェル投資家も参画している。
調達資金は、人間参加型(human-in-the-loop)の大規模分散データエンジンを世界規模で構築するために投じられる。Physical AIにおける最大の課題である「構造化され多様性の高いロボット訓練データを、スケールさせながら生成する」という難題の解決を狙う。
Physical AIのデータボトルネックに挑む
大規模言語モデル(LLM)がインターネット上の既存テキストを起点に数兆トークン規模までスケールしてきた一方で、Physical AIには三つの大きな障壁がある。第一に、根本的なデータ不足。第二に、シミュレーションや限定環境で学んだ政策を現実世界に一般化する際のギャップ。第三に、ロボットごとに異なる筐体・機構(エンボディメント)が乱立し、データが断片化している点だ。
Axis Roboticsの創業者Chris氏は次のように語る。
「Physical AIには、膨大な“人間と物理世界の相互作用”の軌跡データが必要です。にもかかわらず、モデルが際限なく反復・改善できるような、効率的かつ無制限にスケール可能なハイブリッド型データ生産システムは長らく存在しませんでした。Axisが構築したのは、まさにそのギャップを埋める“複利型データエンジン”です。」
汎用ロボット知能を支えるAxisの仕組み
Axisの独自「Compounding Data Engine」は、タスク生成からデータ取得、継続的なモデル学習と最適化までを一気通貫でつなぐワークフローを提供する。
Task Gen Engine(タスク生成エンジン)
物体、空間レイアウト、ビジュアル、ロボットの形態・機種、意味情報など、あらゆる要素をランダム化しながら、ロボットの原子的タスクを指数関数的に生成。1本1本の軌跡データに多様性を織り込むことで、一般化性能を引き出す。
ブラウザベースのシミュレーション遠隔操作プラットフォーム
どこからでもブラウザ上でロボットのモーション軌跡を生成できる、世界初のWebベースインターフェースを提供。従来のラボ常駐型データ収集と比べ、スループットを10倍に高めるとともに、人間が必要に応じて介入しポリシーを修正するDAgger(Dataset Aggregation)のループをシームレスに組み込んでいる。

Ego Data Mobile Capture App(エゴデータ取得モバイルアプリ)
現実世界のデータ取得を、高価な専用ハードウェアや大掛かりな環境構築から、スマートフォン主体の「ゼロバリア」なモバイルアプリへとシフト。SOTA(state-of-the-art)のリアルタイム手指ポーズ推定と、世界中のワーカーを組み合わせることで、人間の視覚・巧緻性をロボットのモーションに大規模転写する。
データ処理パイプライン
取得した軌跡のクリーニング、ドメインランダム化、密な自然言語アノテーションを自動化し、モデル学習に即投入できるマルチモーダルデータセットを生成。従来比で10倍超のデータ品質改善をうたう。
こうした統合アーキテクチャにより、自己強化型の「フライホイール」が回る。シミュレーションや現場でのロボット挙動から得られた失敗軌跡が、人間による修正介入を引き起こし、そのデータが学習に再投入されることで、未踏のエッジケースをカバー。データ量が増えるほど知能が“複利的に”蓄積していく構造だ。

Axisの参入障壁:垂直統合された多様性エンジンとグローバル供給網
Axisの優位性は、Physical AIのライフサイクル全体をカバーする統合プラットフォームにある。データ収集と学習、再訓練がばらばらに行われがちな従来の断片的アプローチとは異なり、Axisは、大規模分散プリトレーニング用データ収集と、人間介入型DAggerによるポストトレーニングのデータ拡張を一つの垂直統合エンジンとして構築している。
多様性を前提に設計されたTask Generation Engineは、物体配置、照明条件、カメラアングル、物理特性、ロボット形状などを系統的にランダム化し、無数のユニークなシーンと操作タスクを生成。汎化可能な訓練データを継続的に生み出す。
さらに、ファウンデーションモデル級のスケールで多様なデータを供給するため、Axisは世界10万超のアクティブコントリビューターから成るロボットデータインフラを構築。1人あたり平均で1日3〜4回の投稿があり、生産効率と多様性を同時に最大化しているという。現在、月あたりシミュレーションデータ1,200時間超、現実世界のエゴセントリックデータ2万時間超を、さまざまなシナリオで生成可能な体制を整えた。
Axisは最近、「Sim Dataset V1」をローンチし、その効果をベンチマークで検証した。LIBERO-Plusタスク群において、Axisの多様性を最大限組み込んだデータセットでπ0.5を事前学習したところ、全体の成功率は4.9ポイント向上。データ量を揃えたRoboCasa365ベースラインに対しては31.3ポイント上回った。レイアウト一般化、センサーノイズ耐性、ロボット姿勢のロバスト性などで優位性が確認されており、Axisの強みが単なるデータ量ではなく、独自の多様性パイプラインにあることを示している。

商業展開と戦略パートナーシップ
Axis Roboticsは、現場実装を見据えた高品質トレーニングデータの商用化を急ピッチで進めている。ロボットハードウェアメーカー、Physical AIモデル開発企業、産業オートメーション大手向けに、用途・筐体に最適化した「Task Package(タスクパッケージ)」をカスタム提供するモデルだ。
すでにBooster Robotics、Manycore Tech、Feagine Robotics、Dexmal、Lotus Car、Geely Auto、SomaStacksなどとの商業提携を開始しており、高精度かつスケーラブルなロボット訓練データに対する市場ニーズの高さを裏付けている。
一般物理知能の定義を塗り替える
Chris氏は、モデルとデータの関係性について次のように述べる。
「Physical AIの未来は、モデルとデータの“深い共生関係”にかかっています。静的なデータセットだけでは、汎用ロボット知能は生まれません。勝ち筋となるのは複利型データエンジンです。グローバルなコントリビューターネットワークと、絶え間ないモデル反復を垂直統合したシステムこそが鍵です。多様な軌跡と人間の修正が積み重なるほど、モデル改善のスピードは増し、自己増幅する“知能フライホイール”が回り続けます。」
Axisのチームは、UC Berkeley、Carnegie Mellon University、Georgia Tech、南洋理工大学(NTU)、上海交通大学(SJTU)といったトップ研究機関出身のAI・ロボティクス研究者に、3,000万ユーザー超のコンシューマー向けプロダクトをグローバルにスケールさせたグロースハッカーを加えた布陣で構成されている。
今回のHack VC主導による1,200万ドルの資金調達を通じ、Axis Roboticsは、プロシージャル生成(自動タスク生成)能力を一段と高めるとともに、分散型コントリビューターネットワークを拡大し、Physical AI時代の「中核データエンジン」としての地位を固めていく考えだ。

