見出しの数字そのものは派手だ。オンチェーン上の実物資産(RWA)の流動化価値は、2026年半ば時点で335億ドル。2025年同時期の約118億ドルから、ほぼ3倍に膨らんだ計算になる。
機関投資家は目論見書の提出を進め、プロトコルはロードマップを引き直している。かつて暗号資産を一蹴していた運用会社も、水面下でオンボーディングを急ぐ。
だが、この合計値を分解していくと、様相は一変する。
成長を牽引しているのは、事実上「米国債」という単一の資産クラスだ。その土台となるインフラは、ほぼ1本のブロックチェーンに集中している。株式、不動産、プライベートクレジットを機関投資家の規模で載せるための規制枠組みも、まだ起案段階だ。
335億ドルという数字は確かに「実在」する。
しかし、その数字が示唆するほど、市場は分散されていない。
要点整理(TL;DR)
- オンチェーンRWAの流動化価値は12カ月で3倍の335億ドルへ。ただし米国債・現金同等商品が約8割を占める。
- トークン化資産の大半はイーサリアムに集積。単一チェーン集中リスクは、従来のセクター分析より過小評価されている。
- 2026年の米欧での最終的な規制設計次第で、RWAトークン化が株式・プライベートクレジットへ拡大するか、債券代替にとどまるかが決まる。
- ブラックロックのBUIDLファンドは、過去最速で運用資産5億ドルを突破。機関投資家需要は「厚いが狭い」ことが示された。
- DeFiでのRWA担保利用は拡大中だが、構造は未成熟で、金融システム全体への波及効果はまだ限定的。
335億ドルという数字と、その「測り方」
RWAのオンチェーン価値として語られる「335億ドル」という数字は、その算出方法を無視しては評価できない。CryptoRankが公表し、RWA.xyzやDefiLlamaのアグリゲーターデータと突き合わせたこの推計は、「流動性が確認され、公的にトラッキングされているトークン化資産」のみを対象としている。非公開の私募案件や、パブリックなトラッキング基盤に載っていない非流動性のトークン化証券は除外されており、世界全体のトークン化商品残高という意味では、実勢はかなり上振れている。
とはいえ、この切り分けは、セクターの勢いを見極めたい投資家にとって決定的に重要だ。オンチェーン上で流動している価値こそ、移転が可能であり、DeFiの担保として組み込め、プロトコル上で償還が実務レベルで機能している資産を意味する。金融機関がプライベートチェーン上で運用するトークン化証券は、法的・技術的には存在しても、オンチェーンの流動性やコンポーザビリティ(相互接続性)への寄与は限定的だ。
335億ドルという「流動部分」の数字こそ、時系列で比較可能な実務ベースの指標だ。これはトークン化市場の上限ではない。DeFiやオープンチェーンが実際に相対できる「下限値」である。
RWA.xyzのダッシュボード上では、70を超える個別商品がトラッキングされている。2025年半ばの約118億ドルから2026年7月時点の335億ドルへの増加は、年率換算で184%の拡大。これは同期間のDeFi TVL(預け入れ総額)の反発ペースや、暗号資産時価総額全体の回復を上回る伸びだ。ただし、この成長のほぼすべては、政府債券セグメント、すなわち「トークン化した国債」に起因している。
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米国債支配──「1つの資産クラス」がセクターを食い尽くす
米国債および現金同等商品、つまりトークン化Tビル(短期国債)、短期政府債ファンド、マネーマーケット型商品は、2026年7月時点の335億ドルのうち、おおむね260億〜280億ドルを占めるとみられる。これは、RWA.xyzの集計や各発行体の開示を突き合わせた推計だ。
強気なセクターストーリーの中で、こうした集中は十分に語られていない。
原因は単純だ。2026年前半までFRBの政策金利が4%超にとどまる環境では、トークン化された米国債商品は、信用リスクほぼゼロで4.5〜5.2%台のオンチェーン利回りを提示し、場合によってはトラディショナル金融では得られない「24時間・当日償還」の流動性も提供した。Ondo FinanceのUSDYとOUSG、SuperstateのUSTB、そしてBlackRockのBUIDLファンドが、この1年で新規資金流入の大半を事実上「総取り」している。
2024年3月に立ち上がったブラックロックのBUIDLファンドは、数週間で運用資産5億ドルを突破し、トークン化ファンドとして過去最速でこの規模に到達した。その後も順調に積み上がり、2026年半ばには17億ドル超に達した。
この偏りは、2つの構造的リスクを生む。
第1に、FRBが急速な利下げに転じれば、トークン化米国債がステーブルコインやDeFiレンディングに対して持っている利回り優位は一気に縮小し、解約圧力が短期に噴き上がる可能性がある。第2に、セクター全体の成長率が、「多様な資産クラスのトークン化」という構造変化ではなく、「金利動向に左右される単一プロダクトへの需要」の反映に過ぎない数字になりかねない。
トークン化の本丸として期待されてきた不動産、プライベートクレジット(私募債・ローン)、貿易金融、株式といった資産クラスは、オンチェーンRWA全体の中では依然として「1ケタ台のパーセント」にとどまっている。
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チェーン集中──RWA市場を抱えるイーサリアム、その強みと弱点
イーサリアム(ETH)には、トークン化RWA価値の58〜63%が集積しているとされる。これはDefiLlamaのRWAブレイクダウンと、Steakhouse Financialによるオンチェーン分析をもとにした推計だ。背景には、イーサリアムに対する機関投資家の蓄積された知見、監査済みスマートコントラクトのエコシステム、そしてイーサリアムを前提に構築されてきたカストディやコンプライアンス基盤がある。
ERC-20という事実上の業界標準トークン規格に加え、Coinbase Custody、BitGo、Anchorage Digitalといった機関向けカストディサービスが充実していることで、トークン化商品の発行体は、最大公約数的なカウンターパーティにアクセスできる。一方で、ガス代高騰やネットワーク輻輳、スマートコントラクトの重大な脆弱性といったイーサリアム特有のリスクは、個別プロトコルではなく、RWAセクター全体のシステミックリスクとなる構図だ。
トークン化資産の第2の受け皿はStellarで、特に新興国の国債トークン化など、政府・金融機関主導のパイロット案件を複数ホストしている。PolygonやAvalancheも、エンタープライズ向け展開を中心に存在感を高めている。Solanaは2026年にかけてRWA領域で一定のトラクションを得たものの、DeFi全体でのシェアに比べれば、RWA TVLに占める比率はまだ小さい。
RWAホスティングにおけるイーサリアム支配は、バリデーター障害、基盤スマートコントラクトの重大インシデント、あるいはイーサリアムインフラを狙い撃ちにした規制措置といった「L1レベルのショック」が起これば、オンチェーンRWA流動性の大半が同時に揺さぶられることを意味する。
マルチチェーン分散の重要性はインフラ事業者によってしばしば強調されるが、実データ上、配分はまだ偏りきっている。多くの発行体はまずイーサリアムで立ち上げ、機関投資家側からの要請があった場合にのみセカンダリチェーンを追加する。Ondo FinanceやFranklin Templetonは、トークン化米国債商品のクロスチェーン展開を進めているが、そのオンチェーンAUMの大部分はいまだイーサリアムにある。チェーン分散のストーリーは、「実装済み」ではなく「将来構想」の域を出ていない。
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地形を塗り替える「巨大プレーヤー」──機関の参入がもたらしたもの
数兆ドル規模のバランスシートを抱える資産運用会社がトークン化プロダクトに本格参入したことで、競争環境は一変した。BlackRock、Franklin Templeton、Fidelity、WisdomTreeといった伝統の巨大プレーヤーが、RWAトークン化を「事業」として動かし始めている。
彼らの存在は、規制面でのお墨付きと、圧倒的な販売ネットワークというプラスをもたらす一方で、米国債連動商品を中心に「勝者総取り」に近い力学をも生み出している。
Franklin TempletonのFOBXXは、オンチェーンUSガバメント・マネー・ファンドの持分をトークン化し、Stellar(XLM)とPolygon(POL)上で運用するファンドだが、2026年半ば時点で運用資産は4億5000万ドル超に達した。同ファンドはブロックチェーンベースのトランスファーエージェントを採用し、投資家は仲介業者の帳簿ではなく、オンチェーン上の検証可能な所有権記録を直接持つ構造になっている。この、一見テクニカルに見える設計は、コンプライアンスとオペレーションの両面で大きな前進だ。
機関投資家の参入は大量のAUMを連れてくるが、それと同時に、DeFiネイティブ発行体には負いきれないレベルのコンプライアンス要件も持ち込む。その結果、ドルベースの残高では機関系プロダクトが支配する一方で、コンポーザビリティと実験性ではDeFiネイティブが優位、という二層構造が生まれている。
Ondo Financeは、DeFiのコンポーザビリティを維持しつつ、機関投資家向けディストリビューションを構築することで、この二極構造への対抗策を打ち出している。ガバナンストークンであるONDOと、トークン化国債プロダクトOUSGは、MakerDAO(現Sky)やAaveなど主要DeFiプロトコルでホワイトリスト化されており、特別な手作業なしに担保として利用できる。この「機関向けカストディ+DeFiコンポーザビリティ」という二正面作戦は、中堅発行体がこぞって模倣しようとしている新たなアーキテクチャだ。
この先、RWAトークン化の成長余地は依然として大きい。しかし、現状の数字が示しているのは、「3倍」という見栄えの良い成長率よりもむしろ、米国債とイーサリアムという2つの集中点、そして規制と技術インフラの整備が追いついていないという、大きなギャップそのものである。 機関投資家の参入は、イールド・プレミアムも押し下げている。2023年から24年前半にかけては、オンチェーン資本を呼び込むため、一部のトークン化米国債商品が同等の伝統的商品に対して10〜20bp程度の上乗せ利回りを提示していた。だが26年半ばには、このプレミアムはほぼ消滅している。現在のオンチェーン利回りは原資産の利回りとほぼ連動しており、価値提案は「利回りアルファ」から「オペレーション面の優位性」へと軸足を移した。具体的には、24時間365日の決済、プログラム可能な譲渡制限、そして担保としてのポータビリティといった点だ。
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DeFiとの統合:コンポーザビリティの理論と流動性の現実
RWAトークン化の理論的な魅力は、伝統的なカストディをブロックチェーン台帳に置き換えることだけではない。本質的なテーゼは「コンポーザビリティ」にある。すなわち、トークン化された実物資産をDeFiプロトコル上の担保として組み込み、暗号資産だけでなく実体経済価値に裏打ちされたオンチェーン信用市場を構築するという構想だ。ただし、この分野の実績は、業界関係者の言説が示唆するほど大きくはない。
最も積極的にRWAを担保として取り込んできたDeFiプロトコルがMakerDAO/Skyである。同プロトコルのRWAバルト(Vault)残高は、2024年には名目ベースで30億ドル超まで膨らんだものの、25年初に戦略をより保守的な方向へ転換した。
26年半ば時点で、Skyのバルトに組み込まれたRWA担保は約18億ドル。セクター全体と比べれば依然として意味のある規模だが、ピーク時からは縮小している。
Aaveは、Ondoの米国債トークンOUSGをホワイトリスト型の担保資産として導入し、Morphoはトークン化米国債プールを通じて、政府証券トークンを差し入れてステーブルコインを借り入れできる仕組みを提供している。しかし、主要DeFiプロトコル全体で見たトークン化RWA担保に対する貸出残高は、26年7月時点でも20億ドルを下回り、セクターが掲げるオンチェーンRWA時価総額335億ドルと比べればごく一部にとどまる。
オンチェーンRWA残高335億ドルに対し、DeFiで実際に担保として活用されているのは20億ドル未満――この乖離は「活用不足」という構造的問題を浮き彫りにしている。大半のトークン化資産は、オンチェーン上で静的に保有されるだけで、積極的な金融取引には使われていない。
活用不足には複数の要因がある。主要DeFiプロトコルにおけるホワイトリスト登録プロセスは長期化しがちで、コンプライアンス要件も重い。多くのトークン化RWA商品は譲渡制限を組み込んでおり、パーミッションレスなDeFiインフラとの相性が悪い。また、トークン化米国債を保有する機関投資家の多くは、追加的なスマートコントラクト・リスクを負ってまでDeFi担保ポジションに組み入れるよりも、利回り獲得目的でパッシブに保有することを選好している。
コンポーザビリティのビジョン自体は現実的だが、その実現スピードを決めているのは技術能力ではなく、コンプライアンス要件だというのが現時点での姿だ。
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プライベートクレジットのトークン化:最大の「未開拓」市場
機関マネーによるトークン化の第1波が米国債に集中したのは、それが最もシンプルな対象だからだ。高い流動性、標準化された仕様、そしてコンプライアンス部門にとっての理解しやすさ――いずれも米国債が優位だ。一方、上場債市場の外側で企業への直接貸出を行うグローバル規模1.7兆ドルのプライベートクレジット市場は、次の論理的なフロンティアとみなされており、オンチェーン・プライベートクレジットをめぐる数字も動き始めている。
Centrifuge、Maple Finance、Goldfinchは、DeFiネイティブなプライベートクレジット・プロトコルとして最大手の3社だ。3社合計のアクティブな貸出残高は、25年同時期の約4億ドルから拡大し、26年7月時点で約8億5,000万ドルまで積み上がっている。
これらのプロトコルは売掛金(レシーバブル)やトレードファイナンス商品、直接融資などをトークン化し、DeFi側の貸し手に対し、8〜14%程度の利回りと引き換えに実体経済の信用リスクへのエクスポージャーを提供している。
プライベートクレジット・トークン化の成長率は、RWAセクター全体の平均を上回る。しかし、絶対額で見ると、この分野がアドレス可能市場に比べて依然として初期段階にあることは明らかだ。全プロトコルを合算したオンチェーン・プライベートクレジット残高は、世界のプライベートクレジット市場の0.05%にも満たない。ギャップの背景には構造的なハードルがある。
プライベートクレジットのトークン化には、国境をまたぐローン・オリジネーションを支える法的枠組み、オンチェーンで監査可能な標準的アンダーライティング、そしてデフォルト時の回収メカニズムといった要件が必要だが、いずれもDeFiネイティブな文脈ではまだ完全には解決されていない。
Hamilton Laneが支援するトークン化プラットフォームTradableは、プライベートクレジット・トークン化により機関投資家寄りのアプローチをとっている。個別ローンではなくファンド構造をトークンで包み込むことで、オリジネーションの複雑さをある程度回避する一方、コンポーザビリティは犠牲になる。BlackRockによるプライベートエクイティのトークン化実験も25年末に発表されたものの、現時点ではパイロット段階にとどまる。実務家のコンセンサスとしては、28年までにオンチェーン上のアクティブなプライベートクレジット残高が100億ドル規模に拡大するとの見方が強いが、その道のりは、主要法域における規制の明確化という前提条件なしには描けない。
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不動産のトークン化:最も話題性が高く、成果が伴っていない分野
RWAトークン化を扱うあらゆるプレゼンテーションで、必ずと言っていいほど冒頭に掲げられるのが不動産のユースケースだ。商業ビルや住宅ポートフォリオの所有権をトークンで細分化し、個人投資家でもその一部を保有できる――というストーリーは、どのオーディエンスにも直感的に響く。しかし、オンチェーンの実データは、まったく異なる現実を示している。
26年半ば時点で、トークン化不動産がオンチェーンRWA総額に占める比率は、信頼できる推計を総合しても2%未満にすぎない。最も長く運営されている不動産トークン化プラットフォームの一つであるRealTは、主にデトロイトなど米国の二次市場を中心とした住宅物件約1億ドル分を運用しているにとどまる。
トークン保有者は家賃収入をプロラタで受け取り、セカンダリー市場でトークンを売買できる。小規模であればモデルとしては機能しているが、機関投資家が参加する不動産市場のスケールにはまったく届いていない。
障害は技術ではなく、制度面にある。米国の多くの法域では、不動産の権利移転には郡の登記所、法的な権利証書、タイトル保険が必要だが、いずれもブロックチェーン上のトークン移転を法的に有効な権利移転として認めていない。
多くの「トークン化不動産」プロジェクトで投資家が保有するトークンは、物件そのものではなく、物件を保有するLLCに対する持分を表すにすぎない。
こうしたスキームでは、譲渡性が制限され、法域ごとのコンプライアンスが複雑化するうえ、LLCというビークルにカウンターパーティー・リスクが集約されてしまう。
多くの「トークン化不動産」商品は、不動産そのものをトークン化しているわけではない。不動産を保有する法人の持分をトークン化しているに過ぎない。この違いは、投資家保護、差押・競売時の優先順位、国境をまたぐ権利行使の観点から極めて大きな意味を持つ。
Elevated Returnsをはじめ、複数の機関向けプラットフォームが大規模な商業不動産のトークン化に挑戦してきたが、SEC規則Dに基づく私募スキームでの対応を余儀なくされており、投資対象は適格投資家に事実上限定されている。その結果、物語上の魅力を支えてきたリテール参加は切り捨てられている。
欧州連合のMiCA規則と、その補完枠組みであるDLTパイロット・レジームは、欧州不動産市場におけるトークン化証券の扱いについて、より体系立ったルールを提示している。しかし、導入はまだ端緒についたばかりだ。不動産トークン化が本格的なテーマとなるのは、26年ではなく、むしろ28〜30年の話である。
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規制アーキテクチャ:今四半期の決定が中期的な上限を定める
26年におけるRWAトークン化のスケールを左右する最大の変数は、テクノロジーでも流動性でも機関投資家需要でもない。規制の最終確定である。現在、3つの主要な規制枠組みが同時並行で実装フェーズにあり、その組み合わせが少なくとも28年までのアドレス可能市場の上限を規定することになる。
米国では、SECがデジタル資産市場構造イニシアチブの一環として策定したトークン化証券に関するルール案が、26年半ば時点で最終コメント期間に入っている。
このルールは、公的ブロックチェーン上で発行されるトークン化証券が、既存の証券取引法上の「カバード・セキュリティ」に該当するか、あるいは新たな登録枠組みを要するかを明確化するものだ。その結論次第で、トークン化株式などのプロダクトをリテール投資家向けにスケールさせられるのか、それとも適格投資家向けの例外枠に閉じ込められるのかが決まる。
欧州連合のMiCA規則は、24年12月の全面施行により、トークン化された電子マネートークンや資産参照トークンに対して比較的明快なフレームワークを提供した。一方で、トークン化された伝統的証券の扱いは、別枠のDLTパイロット・レジームを通じて運用されている。
26年7月時点で、DLTパイロット・レジームのもとで発行された証券は15銘柄に満たず、多くの欧州発行体にとっては、依然としてコンプライアンス・コストがオペレーション上のメリットを上回っていることがうかがえる。
26年末までに最終化が見込まれるSECのデジタル資産市場構造ルールは、米国のRWAトークン化にとって、単独のイベントとしては最も影響が大きい規制要因だ。許容的な枠組みが示されれば、3年程度の時間軸で500億〜1,000億ドル規模の追加的な機関投資家向けプロダクトの余地が生まれる可能性がある。
アジアでは、**シンガポール金融管理局(MAS)と香港証券先物委員会(SFC)**が、米国やEUに比べて相対的に柔軟なトークン化ガイダンスを公表している。シンガポールの「Project Guardian」は、MASと大手金融機関が協業する実証実験として、トークン化債券やファンドのインターバンク移転を実演してみせた。香港も、トークン化グリーンボンドの発行を承認するなど、制度インフラの整備を加速させている。政府が発行する国債。
こうしたアジアの枠組みは、現時点では世界的な資本フローを動かすほどの規模には至っていないものの、事実上、米国およびEUの枠組みと比較される「規制上のベンチマーク」として機能し始めている。
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発行者の勢力図:上位5プラットフォームが大半のAUMを支配
オンチェーンRWAの評価額335億ドルは、多数の競合プロトコルに分散しているわけではない。運用資産残高(AUM)ベースで見ると、上位5つの発行主体・プラットフォームが全体の約75〜80%を握っている。この高い集中度自体が一種のシステミックリスクを生み出しており、セクターの中長期的な競争構造にも疑問を投げかける。
第三者検証が可能なプロダクトの中でAUMトップに立つのはBlackRock BUIDLで、2026年半ば時点で17億ドル超に達した。続くOndo Financeは、OUSGとUSDYを合算したAUMが9億ドル近辺に乗せている。Franklin TempletonのFOBXXは約4億5,000万ドル。SuperstateとMountain Protocolがこれに続き、両社を合わせたAUMはおよそ6億ドル規模となる。
この5社だけで36億ドル超を占める一方、セクター全体では335億ドルとされており、この乖離は、小規模プロダクトのロングテールや、プライベートな機関投資家向け案件、パブリックなダッシュボードに十分反映されていないクロスチェーン・ラッパーなどが相当程度含まれていることを示唆している。
伝統的金融機関と潤沢な資本を持つプロトコルへの集中は、分散化という観点で重い意味を持つ。小規模な発行者は、利回り・コンプライアンス体制・機関投資家ネットワークの三つを同時に揃えることが難しく、競争力を欠きがちだ。2022〜23年にかけて資金調達を行った複数のDeFiネイティブなトークナイゼーション・スタートアップ、たとえばBacked Financeや初期のSwarm Marketsなどは、最終的な投資商品を自ら発行するモデルから、B2B向けインフラ提供へとピボットした。
オンチェーンRWAのAUMの80%を5社が握る構造では、セクター全体の健全性は、「許可不要のイノベーション」という当初のRWAトークナイゼーションの理念ではなく、これら5社の戦略とコンプライアンス判断に構造的に連動せざるを得ない。
インフラ層は、やや分散が進んでいる。Securitize、Tokeny Solutions、Fireblocksといったトークナイゼーション・プラットフォームが、多くの大手発行者に対し、発行・カストディの技術基盤を提供している。なかでもSecuritizeは、コンプライアンスおよびトランスファーエージェント機能を兼ねるインフラとして頭一つ抜けた存在となっており、最大級のトークン化ファンドをいくつも発行または共同発行してきた。2025年にはHamilton Laneのトークナイゼーション事業を買収し、クリティカルな経路のさらなる集約を進めた格好だ。
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ここから先の「持続的成長」に必要なもの
オンチェーンRWAの時価総額が1年で118億ドルから335億ドルへと3倍に拡大したのは、確かな節目だ。そこには、実際の機関マネー、実需としての利回り需要、そしてトークナイゼーション・インフラの運用面での進化が反映されている。
しかし、その成長を支えている構造──米国債への偏重、単一チェーン依存、DeFiでの利用制約、未完成な規制枠組み──は、2030年までに10〜16兆ドル規模のアドレス可能市場に届くには、乗り越えるべき「天井」を示している。
成長トラジェクトリーを大きく変えうる要素は3つある。
第一に、米国での規制最終化を通じて、個人投資家がアクセス可能なトークン化証券を認めることだ。現在、意味のあるトークン化プロダクトのほぼすべてが適格・認定投資家に限定されており、アドレス可能市場は事実上、機関投資家マネーに縛られている。
第二に、Ethereum、Solana (SOL)、さらにはプライベートチェーン間を、カストディ移管や再発行なしで行き来できる標準化されたクロスチェーン相互運用プロトコルが整備されることだ。これにより摩擦が低減し、DeFiでの活用余地が一気に広がる。
第三に、LLCなどのラッパーではなく、トークン化された持分が基礎資産への直接的な所有権を伴える法的枠組みが整うことだ。これが実現すれば、不動産やプライベートクレジットをスケールさせる道が開ける。
業界側も、手をこまねいているわけではない。Chainlinkのクロスチェーン・インタオペラビリティ・プロトコル(CCIP)は、まさにこのクロスチェーン可搬性の課題に対応するべく、複数のトークナイゼーション・プラットフォームで積極的に実装が進んでいる。DTCCのTokenized Collateral Networkは、2023年のパイロットから一歩進み、より広範な機関向け決済テストへと拡張された。さらにSwiftによるブロックチェーン相互運用の実験は、従来の金融メッセージング基盤がオンチェーン資産と連携しうることを示している。いわば「配管工事」は着実に進んでいる。
2026〜27年にかけて現実的なRWA成長シナリオは、米国債ドリブンの3倍成長ではなく、アセットクラスの裾野拡大だ。オンチェーンのプライベートクレジットが50億ドル規模に近づき、初の本格的なトークン化エクイティが規制審査をクリアし始める局面が見えてくるだろう。
335億ドルという数字そのものより重要なのは、「何で構成され、どこにつながっているか」だ。現状のオンチェーンRWAは、高度化されたオンチェーン・マネー・マーケットとしての性格が強く、その価値は現実的かつ有用だが、業界の野心的なビジョンが描く「世界資本市場のプログラマブル・レイヤー」には、まだ距離がある。そのギャップにこそ、次の成長フェーズと、次のリスクフェーズが同居している。
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結論
リアルワールド資産(RWA)のトークナイゼーションは、2026年に入り、もはや軽視や一蹴が成り立たない水準を越えた。
オンチェーンで流通する流動資産は335億ドル。12カ月での3倍増。伝統市場で数十兆ドルを運用する資産運用会社の本格参入。これらはいずれも、市場が現実に追認したファクトだ。
このセクターは「本物」になった。
一方で、本物になりきれていないのが、分散度合い、コンポーザビリティ(組み合わせ可能性)、そして規制面での完成度だ。これらが整って初めて、335億ドルは「天井」ではなく「土台」となりうる。
米国債への過度な集中、単一チェーン依存、トークン化ビークルと実体資産の直接所有権との間にあるリーガルギャップは、取るに足らない脚注ではない。2030年末までにRWAトークナイゼーションが1兆ドル規模に到達するのか、それとも「ブロックチェーン台帳を備えた機関投資家向けマネー・マーケットのアップグレード」にとどまり、成長が頭打ちになるのか──その行方を決める、構造的な制約そのものなのである。





