分散型台帳「XRP Ledger」の決済エンジンに、2015年から潜んでいた不具合により、 理論上は上限1,000億枚を超える送金可能なXRP** (XRP)を 新たに「鋳造」できた可能性があった――開発者らがこう明らかにした。**
重要ポイント
- AIセキュリティツールを使うリサーチャーが9月22日にオーバーフロー・バグを バグバウンティ計画を通じて報告。
- 開発者は3日後に修正をリリースし、約10年ぶりに通常のバリデータ投票プロセスを スキップ。
- 管理チームは、欠陥が実際に悪用された痕跡は確認できなかったと説明。
XRP「偽造」バグの実像
XRP Ledgerのメンテナーチームは10月9日付の脆弱性報告書で、 この欠陥の存在を公表した。 報告書によると、9月22日にネットワークのバグバウンティ計画を通じて ある研究者から通報があったという。米リップル社の開発部門RippleXは、 攻撃手法を再現したうえで深刻度を「クリティカル」と判定した。 チームはこれまでに、この脆弱性が悪用された形跡は一切見つかっていないとしている。
問題が潜んでいたのは決済エンジンだ。ブックオーダーを一度の支払いで まとめて約定させる際、買い手の支払総額を算出するロジックが、 範囲チェックのない64ビット整数演算に依存していた。
意図的に不適切なレートで設定したオファーを何百件も並べることで、 支払総額を表す数値を上限値からオーバーフローさせ、 「ごく小さな値」に巻き戻すことが可能だった。 その結果、売り手は本来どおりの代金を受け取る一方で、 買い手はほとんど支払わずに済む構図になる。
さらに、元帳側で「新規XRPが発生していないか」をチェックする 安全装置も同じ演算方式に依存していたため、 このオーバーフローにより生じた「偽造XRP」を 正常に検知できない構造になっていたと、 Decryptの分析記事は指摘している。
関連記事: GPT-6.1 Sol が Asana のエージェントコストを76分の1に削減 ただし条件付き
ケイデン・リャオ氏の説明
セキュリティ企業Veria Labsの共同創業者である **Cayden Liao(ケイデン・リャオ)**氏はX(旧ツイッター)への 投稿で、 同社のAIエージェントがこのバグを発見し、 実際に動作するエクスプロイトコードまで自動生成したと明かした。
同氏の試算では、単一トランザクションで 約18兆XRPを「鋳造」し得たという。 これほど長期間にわたり見過ごされてきた理由について、 リャオ氏は「本来なら低リスクに分類される2つのバグが 連鎖することで、重大な欠陥になっていたためだろう」と分析する。
リャオ氏によれば、リップルはVeria Labsに対し バグバウンティ計画の上限額である25万ドルを支払った。 RippleXでエンジニアリング部門を率いる **J. Ayo Akinyele(J・アヨ・アキネレ)**氏は、 今後はAIを活用したバグ検出や形式手法による検証を一段と拡充すると表明。 AIは「脆弱性が発見されるスピードを根本的に変えつつある」と述べた。
XRPL「緊急パッチ」の舞台裏
修正プログラムは、報告から3日後の9月25日に ノード実装「xrpld」のバージョン3.4.1として公開された。 同日中に信頼バリデータの8割超がアップデートを完了し、 変更は通常の2週間のアメンドメント投票プロセスを経ずに発効した。 こうした「投票スキップ」は10年以上ぶりだ。
開発側は、通常どおりにオープンソースとしてコードを公開し、 2週間の投票期間を設けていれば、 パッチが有効になる前にバグの詳細が攻撃者の目に留まりかねなかったと説明。 セキュリティ上の例外として、異例のプロセスを正当化した。
暗号資産の歴史を振り返れば、似た教訓は少なくない。 2010年にはビットコイン (BTC)で オーバーフロー・バグが発生し、 1件のトランザクションから1,840億枚超のコインが 生成される事態となった。 当時の開発者らは数時間以内に修正を行い、 問題の取引を打ち消すチェーンのフォークで対応した。
ゼロ知識暗号を活用したZcash (ZEC)でも、 今年、同様に偽造リスクを伴う脆弱性が見つかり、 チームは急ぎパッチを適用。報道を受け、 トークン価格が急落する局面もあった。

