「金を持ちたい」と思いながら、購入や保管のハードルに阻まれてきた投資家は少なくない。そこに登場したのが、金連動ステーブルコインだ。地政学リスクの高まりや景気後退懸念が強まるなか、金は再び長期投資家の注目を集めている。
金連動ステーブルコインは、伝統的な金現物市場とブロックチェーンを結びつけたデジタル資産であり、金という実物資産の価値安定性と、暗号資産の機動性を両立させる試みだ。
各トークンは現物の金価格に連動するよう設計されており、発行体が保有する金準備を裏付けとしている。2025年時点で、この分野は成功例と失敗例の両方を生み出しており、なかでも Tether Gold(XAUT)は、規模・流動性ともに市場をリードする存在に成長した。一方で、Perth Mint Gold Token(PMGT)のように、規制・オペレーション上の課題から事業停止に追い込まれたケースもある。
本レポートでは、金連動ステーブルコインの技術的・経済的・規制面の構造を解説し、その利点と限界を整理したうえで、主要プロジェクトを比較・分析し、今後の展望を描き出す。
金連動ステーブルコインとは何か
金連動ステーブルコインは、ブロックチェーン上で発行されるトークンであり、1トークン当たり一定量の金現物に価値をひも付けることで、価格を安定させようとする仕組みだ。
価格変動の大きい Bitcoin や Ethereum と異なり、これらのトークンは、発行体が高セキュリティの金庫で保管する金準備を価値の源泉とする。
モデルとしては、米ドルなどの法定通貨に連動する一般的なステーブルコインを踏襲しつつ、裏付け資産を金に置き換えた形だ。歴史的に「価値の保存手段」として機能してきた金へのエクスポージャーを確保しつつ、ブロックチェーンの透明性、小口化、国境を越えた送金性といった利点を享受したい投資家のニーズに応える。
歴史的背景と市場の登場
金をデジタル化するという発想自体はブロックチェーン以前から存在したが、ブロックチェーンの登場によって、所有権の厳密なトラッキングや、金の細分化・移転が技術的に可能になった。
2014年にスタートした DigixDAO や、2020年にローンチした Tether Gold は、その先駆けとなるプロジェクトだ。また、豪州の政府系製錬所パース造幣局が取り組んだ PMGT のように、公的機関が関与するトークンも現れた。
こうした試みは、保管コストの高さ、流動性の低さ、個人投資家にとってのアクセス難といった、従来の金投資が抱えてきた課題を、分散型台帳を用いた「デジタルな所有権」で解消しようとするものだった。
金連動ステーブルコインの仕組み
裏付け資産と準備管理
金連動ステーブルコインは、実物の金準備を100%(もしくはそれ以上)裏付けとして保有することを前提とする。通常、その金は国際基準を満たした金塊として、高度なセキュリティを備えた金庫で保管される。
たとえば Tether Gold(XAUT)の場合、スイス国内の保管庫に「ロンドン・グッド・デリバリー」規格の金地金を保有し、1トークンが金1トロイオンス(31.1グラム)に相当するよう設計されている。
発行体は原則として、流通するトークン数量と保管する金残高が1:1になるよう、第三者機関による定期的な監査・アテステーションを実施する。こうした担保管理により、トークン価格が金のスポット価格から大きく乖離しないよう抑制される。
償還メカニズム
投資家は、保有するトークンを金現物または法定通貨と交換(償還)できる。このプロセスは、多くの場合スマートコントラクトで管理される。
Tether Gold では、スイスへの金地金の配送を伴う物理的な引き渡しのほか、米ドルへの換金にも対応する。一方、DigixDAO が設計した DGX トークンは、シンガポールの保管庫で保管されるグラム単位の金との直接交換を想定していた。
こうした償還プロセスでは、ブロックチェーン上の取引履歴を用いて所有権を明確にし、決済を自動化することで、従来の金預かり証等に比べて相対先リスクを低減している。
ブロックチェーン基盤
多くの金連動ステーブルコインは、Ethereum をはじめとするスマートコントラクト対応チェーン上で発行され、ERC-20 あるいは TRC-20 といった標準トークン仕様に準拠している。
Tether Gold は Ethereum と Tron の両チェーンに対応し、クロスチェーンでの利用を可能にしている。どのチェーンを選択するかは、取引手数料や送金速度、DeFi との連携可能性に直接影響する。Ethereum は2022年の PoS(プルーフ・オブ・ステーク)移行により、エネルギー効率が大幅に改善し、XAUT 取引の環境負荷も約99.95%削減されたとされる。
ペッグ維持の仕組み──デジタルトークンと金価格の連動
価格安定のダイナミクス
トークン価格と金価格の連動(ペッグ)は、主に裁定取引(アービトラージ)のインセンティブによって維持される。
市場価格が裏付けとなる金の価値を下回れば、投資家は割安なトークンを買い集め、金現物との償還を行うことで差益を狙う。この過程でトークン供給が減り、価格上昇圧力が生じる。
逆にトークンが金価格を上回るプレミアムで取引される場合、発行体は新規トークンを発行して市場に供給し、利ざやを得つつ価格を押し下げる。仕組みとしては法定通貨連動型ステーブルコインに近いが、金の保管・輸送コストが絡む分、オペレーションは複雑化しやすい。
ペッグ維持における課題
市場ストレス局面や流動性の枯渇時には、価格乖離が拡大しやすい。PMGT のケースでは、保管を担うパース造幣局が規制当局の厳格な監視下に置かれたことを受け、償還にボトルネックが発生。投資家の信認が急速に悪化し、最終的にトークンは終了に追い込まれた。
こうしたリスクを抑えるため、成功しているプロジェクトの多くは、過剰担保(オーバーコラテラル)、複数地域にまたがる保管ネットワーク、リアルタイム監査ツールなどを組み合わせ、透明性とオペレーション耐性を高めている。
金連動ステーブルコインのメリットとデメリット
メリット
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価格の相対的安定性:
暗号資産と比べてボラティリティの低い金を参照資産とすることで、ヘッジ手段や決済通貨としての利用余地が広がる[1]。 -
投資アクセスの向上:
たとえば Tether Gold では、0.000001オンス単位までの保有が可能であり、少額から金に投資できる仕組みとなっている[5]。 -
透明性の高さ:
ブロックチェーンの改ざん耐性を活かし、準備金の証跡をオンチェーンで確認できるため、「ペーパーゴールド」市場で指摘されてきた不透明性への懸念を軽減できる[3]。 -
高い可搬性:
デジタル化された「金」は、国境を越えて数分で移転可能であり、現物地金の輸送・通関といった物理的な制約を大幅に緩和する。
リスク・限界
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相対先リスク(カウンターパーティリスク):
発行体や保管機関の信用力に依存する構造は避けられない。PMGT の破綻は、カストディアンが規制・法的問題に直面した場合、投資家が重大な損失を被り得ることを示した。 -
規制の不確実性:
資産裏付け型トークンに対する各国当局のスタンスはまだ固まり切っておらず、とくにマネロン対策(AML)や証券規制との関係で、コンプライアンスの難度は高い。 -
運営コスト:
金の保管・保険には恒常的な費用が発生し、それが管理手数料やスプレッドとしてユーザーに転嫁される可能性がある。 -
市場流動性の不足:
DGX のようなニッチなトークンは取引高が細りやすく、スプレッドの拡大や価格発見の歪みが普及の足かせとなっている。
注目すべき金連動ステーブルコイン5銘柄
Tether Gold(XAUT)
開発の経緯と発行体の素顔
2020年1月、USドル連動ステーブルコイン USDT の発行体として知られる Tether Holdings が、機関投資家向けを意識したトークン化ゴールドとして XAUT をローンチした。
Tether は、すでに法定通貨連動型ステーブルコインで構築していたインフラやコンプライアンス体制を流用しつつ、スイスの MKS PAMP GROUP などカストディアンとの提携を通じて、現物金市場と分散型金融(DeFi)を橋渡しすることを狙った。ボラティリティの高い暗号資産に代わる「規律ある代替資産」としての位置づけを強調している。
技術インフラ
XAUT は、Ethereum 上の ERC-20 トークン と、Tron 上の TRC-20 トークン の双方で発行されており、チェーン間の相互運用性を確保している。Ethereum が2022年に PoS コンセンサスへ移行したことで、同チェーン上の XAUT 取引はエネルギー効率が向上し、カーボンフットプリントは約99.95%低減したとされる。
投資家はスマートコントラクトを通じて、自身が保有するトークンをスイスの保管庫にある特定の金地金とひも付けることができる。1トークンは 純度99.99%の金1トロイオンス(31.1g)に相当し、Ethereum の小数点精度を活かして 0.000001オンス(0.000031g)までの分割保有が可能だ。
準備管理と監査
Tether は、Moore Cayman など第三者による月次のアテステーション報告書を公表し、保管金残高が流通トークン数量と一致していることを検証している。保管されるのは国際的な大口取引で標準とされる ロンドン・グッド・デリバリー金塊 だ。
2024年には、ユーザーが保有するXAUTを、対応する金地金のシリアル番号まで追跡できる独自ブロックチェーンエクスプローラーをローンチ。これは、多くの金ETFを上回る透明性を提供する機能として注目された。
市場動向
2025年2月時点で、XAUT の時価総額は 7億2,100万ドル、流通トークン数は約24万6,000枚に達している。1日当たりの取引高は約350万ドルで、主な取引所は Binance や Kraken といった中央集権型取引所だ。
競合トークンが増えるなかでも、Tether が築いた流動性ネットワークと、Aave など主要 DeFi プロトコルで担保資産として採用されている点が、XAUT の優位性を支えている。
Paxos Gold(PAXG)
創業理念と規制対応
2012年に Charles Cascarilla 氏と Rich Teo 氏が設立した Paxos Trust Company は、厳格な信託規制で知られる ニューヨーク州金融サービス局(NYDFS) の認可を取得した後、2019年9月に PAXG をローンチした。
この規制ライセンスにより、PAXG は無登録トークンとは一線を画す「規制準拠型トークン化ゴールド」として、機関投資家からの信頼を集めた。Paxos は、金保管コストの実質的な削減と、即時決済を可能にすることで、金保有の近代化を目指した。
技術アーキテクチャ
PAXG は Ethereum 上の ERC-20 トークン であり、1トークンあたりロンドンの Brink’s 金庫に保管された LBMA 認定金1トロイオンスが裏付けとなる。
スマートコントラクト設計により、投資家はトークンを金地金と直接償還できるが、実際の金塊受け取りには最低償還数量(一般的に約430オンス=1本の金塊)が設けられている。
XAUT と異なり、PAXG はあえてマルチチェーン展開を避け、クロスチェーン柔軟性よりも Ethereum のセキュリティと規制対応の一貫性を優先している。
準備の透明性
Paxos は、会計事務所 WithumSmith+Brown による月次アテステーションを公表し、1:1の担保関係を証明している。2023年には、オンチェーンのトランザクションデータと準備金台帳を突き合わせるブロックチェーン監査ツールを導入し、ほぼリアルタイムでの準備確認を可能にした。この仕組みは、その後ライバル各社にも模倣されている。
準備金は Lloyd’s of London による保険の対象となっており、盗難や物理的な損傷リスクをカバーしている。
採用状況とユースケース
2025年、PAXG の時価総額は 6億1,100万ドル に拡大した。背景には、2020年に暗号資産レンディング大手 Nexo が PAXG を500万ドル相当購入したことなど、機関投資家との提携がある。
また、PAXG は PayPal の暗号資産サービスにも統合されており、個人投資家が既存の決済プラットフォームを通じて金へ間接投資できるルートとしても存在感を高めつつある。 米国ユーザーに対してPAXGの少額購入を可能にしている一方、NYDFS(ニューヨーク州金融サービス局)規制に準拠しているがゆえに、XAUTと比べるとDeFi連携は限定的だ。多くのプロトコルがNYDFS管轄下の資産の取り扱いを敬遠しているためである。
AurusGOLD(AWG)
分散型発行モデル
2018年設立の英国フィンテック企業Aurus Technologies Ltd.は、LBMA認定精錬所が自らゴールド裏付けトークンを発行できるパーミッションレス・プロトコルとしてAWGを開発した。
Tetherのような中央集権型発行体と異なり、Aurusは保管主体ではなくブロックチェーン・インフラ提供者として機能する。EMCD Bullionなどのパートナー精錬所が、Aurusのスマートコントラクト規格に従いつつ、準備資産を各社の裁量で管理する構図だ。
トークノミクスとペッグ維持
AWGは1トークンにつき純度99.99%の金1グラムを担保とし、スイス、シンガポール、ドバイの保険付き保管庫に保管されている。プロトコルは動的なミント/バーンを通じて裁定取引を促し、ペッグを維持する。
- AWG価格が現物金価格を上回るとき:精錬所が新規トークンをミントし、供給を拡大
- AWG価格が現物金価格を下回るとき:精錬所が金を引き出しつつトークンをバーンし、供給を縮小
このアルゴリズム的な調整と、取引ごとに0.15%の手数料を組み合わせることで、市場価格を金スポットに対し0.5%以内に収める設計となっている。
ブロックチェーン展開
AWGはEthereumのERC-20規格を採用しており、手数料抑制を目的に今後Polygonへの拡張も予定している。Aurusのモバイルアプリでは、ノンカストディアルの保管と即時送金が可能で、新興国のリテール層を主なターゲットとしている。
保管手数料は、KYC済みウォレットで年率0.4%、匿名ウォレットでは年率2%と大きく差を付けており、不正利用や制裁回避行為への抑止を狙った料金設計となっている。
市場ポジション
時価総額はXAUTやPAXGに及ばないものの、AWGは2025年に1億8,000万ドル規模へ拡大。ハイパーインフレに直面するトルコやナイジェリアでインフレヘッジ手段として採用が進んだ。
トークン化された金は累計50トン超と、世界年間金産出量のおよそ5%に相当する。
Meld Gold(MELD)
サプライチェーン統合
Meld Goldは2023年、Algorandとの提携を通じてローンチされ、オーストラリアの金サプライチェーンを「産地起点」でトークン化するモデルを構築した。
Evolution Miningなどの鉱山会社や、ABC Refineryなどの精錬所が、採掘段階からMeldのブロックチェーン上で金をトークン化し、仲介レイヤーを削減している。MELDトークン1枚につき金1オンスが裏付けとなり、資産はシドニーとシンガポールのBrink’s保管庫に預託される。
Algorandの役割
MeldはAlgorandの**Pure Proof-of-Stake(純PoS)**コンセンサスを活用し、約4.5秒のブロックタイムによる即時性と、1トランザクションあたり約0.001ドルという低コストを実現している。アトミックスワップ機能により、MELDとアルゴランド・スタンダード・アセット(ASA)間の直接交換が可能で、新たなDeFiユースケースを切り開いている。
例えば、分散型取引所TinymanではMELD/ALGOペアの流動性プールが提供され、最大12%のAPY(年率利回り)が提示されている。
規制面でのイノベーション
MeldはオーストラリアのDigital Asset Licensing Regime(2024年デジタル資産ライセンス制度)の下で運営され、豪証券投資委員会(ASIC)に対するリアルタイムの準備資産報告が義務付けられている。プラットフォームはオラクルネットワークを通じてLBMA金価格をオンチェーンに配信し、ペッグ乖離を0.25%以内に抑制する設計だ。
成長指標
Meldの時価総額は2025年に9,500万ドルを突破し、トークン化された金は約3万オンスに達した。主な顧客層は、ESG準拠を重視するアジア太平洋地域の機関投資家であり、Meldは採掘された1オンスごとにカーボンオフセット証書を提供している。
Perth Mint Gold Token(PMGT)(終了済み)
政府系主体による実験
PMGTは2019年、豪州州営のPerth Mintとフィンテック企業Trovioが共同で発行した、世界初の政府保証付きゴールドトークンだった。1トークンが金1オンスを表し、西オーストラリア州政府のAAA格付けソブリン信用により裏付けられていた。GLDなどの金ETFに対抗し、ブロックチェーンベースの所有権モデルを提示する狙いがあった。
頓挫と示唆
しかし2023年、豪金融犯罪対策機関AUSTRACがマネロン対策(AML)違反でPerth Mintに180万豪ドルの罰金を科し、疑わしい取引の届出義務違反などが指摘されたことで、プロジェクトは事実上崩壊した。さらに、金現物の償還を行うにはパースでの対面手続きが必要という不透明なプロセスが、投資家の不信感に拍車をかけた。
ピーク時のPMGTの時価総額は230万ドルにとどまり、その後は取引所の相次ぐ上場廃止を受けて流動性が枯渇した。
金担保型ステーブルコインの今後の展望
普及を後押しする要因
- 機関投資家需要:ヘッジファンドや事業会社は、ブロックチェーンによる監査容易性や即時決済のメリットを背景に、財務リザーブの分散先として金トークンを採用する可能性がある。
- 新興国市場:高インフレ通貨圏の個人・企業が、自国通貨よりも安定した「デジタル金」を価値保存手段として利用する動きが広がりうる。
- DeFi連携:金担保トークンをDeFiプロトコルの担保として組み込むことで、レンディングやイールドファーミングに新たな流動性源が生まれる。
規制・技術面のハードル
- グローバル標準化:各国規制をどう整合させるかが最大のカギとなる。EUのMiCA規制(2024年施行)は、準備資産の透明性や発行体ライセンスに関するベンチマークを提示した。
- カストディ技術の進化:分散型カストディやマルチパーティ計算(MPC)などの進歩により、集中管理型の保管庫への依存を低減できれば、カウンターパーティリスクを大きく引き下げられる。
市場見通し:成長ドライバーとリスク
価格面のカタリスト
- 金価格は2025年に1オンスあたり2,727.94ドルに到達するとの予測もあり、ステーブルコインの担保価値押し上げ要因となる。
- Bloomberg Intelligenceは、DeFi連携拡大を背景に、金担保トークン市場が2030年まで年平均15%成長(CAGR)すると見込む。
普及トレンド
- 機関マネー:BlackRockが2024年にローンチしたトークン化ゴールドETFは、裏付け資産の30%をXAUTで構成し、5億ドルの資金流入を集めた。
- 新興国需要:トルコではリラが75%のインフレに見舞われる中、AWGのユーザー数が2024年に前年比300%増加した。
技術革新
- DeFi 2.0:Algorand上のFolks FinanceとMELDの統合により、金担保ローン(MELD担保)の年率5%ローン商品が実現している。
- CBDCとのシナジー:ECB(欧州中央銀行)のデジタルユーロ実証実験では、PAXGが準備資産の一部として組み込まれている。
リスク要因
- 規制不確実性:MiCAによる2024年以降の準備資産要件強化は、CACHEのような中小トークン発行体の市場撤退を招く可能性がある。
- 金価格ボラティリティ:JPMorganは2025年の景気後退局面で金価格が±20%変動し得ると警告しており、ペッグ維持と清算メカニズムにストレスを与えるリスクがある。
- カストディ集中リスク:金担保トークンの約7割がBrink’s、Malca-Amit、Loomisの3社に依存しており、特定保管業者のオペレーション障害や規制措置が、システム全体に波及する懸念がある。
2030年アウトルック
アナリスト予測では、以下の条件が満たされれば、金担保型ステーブルコイン市場の時価総額は2030年までに50億ドル超へ拡大し得るとされる。
- tBTC型フェデレーションなど、分散型カストディの本格導入
- シンガポールMASのDigital Asset Guidelinesのような枠組みの下で、主要発行体が規制面の明確性を確保
- オンチェーン金先物など、トークン化デリバティブへの展開による商品ラインアップの高度化
結語
金担保型ステーブルコインは、古典的な価値保存資産である「金」と、最先端の分散型インフラを融合させた新しいアセットクラスとして台頭している。
Tether Goldのようなプロジェクトがビジネスモデルの実効性を示した一方で、PMGTの頓挫は、カストディ体制とコンプライアンス・ガバナンスの脆弱性が致命傷となり得ることを浮き彫りにした。
マスアダプションを実現するには、発行体が準備資産とオペレーションの透明性を高め、各国規制当局との協調を深めつつ、流動性を厚く積み上げていくことが不可欠だ。基盤となるブロックチェーンインフラが成熟するにつれ、金担保型ステーブルコインは、グローバル金融における新たな橋渡し役として、デジタルの利便性と金の「タイムレス」な安全性を両立させる存在になりうる。

