Axis Roboticsは、Frankaアームによるマニピュレーション向けとして世界最大級の オープンソース・シミュレーションデータセット Axis Sim Dataset V1 を公開した。 フルデータセットに加え、学習コードやベンチマークもすべて一般公開されている。
V1は、シミュレートされたFranka Research 3アームを用い、207種類のマニピュレーションタスク、 6万超のシーンバリエーションにわたり、5万本超の人間によるテレオペレーション軌跡から構成される。
このデータセットはHugging Face上で16万回超ダウンロードされており、 Franka操作のオープンソース・シミュレーションデータとしては最多ダウンロードを記録。 ベンチマークでは、V1を用いた継続事前学習によりπ0.5が向上し、 体積を揃えたRoboCasaベースラインを上回る性能を示した。 結果はすべて公開され、第三者が検証可能となっている。

Axis Roboticsは、物理AIに特化した「複利型データエンジン」の構築を掲げる。 大規模シミュレーション、エゴセントリックな実世界データ取得、 ヒューマノイドの歩行・操作(loco-manipulation)、 そして人間によるDAggerポストトレーニングを垂直統合したシステムだ。 同社はHack VCがリードし、Nomad Capital、Pi Network Ventures、10K Venturesや エンジェル投資家が参加するシードラウンドで1,200万ドルを調達している。
「クリーンデータ偏重」への逆張り
ロボティクスでは一般に、模倣学習の前提として 「デモンストレーションは初期から高い最適性を満たしているべきだ」 との考え方が支配的だ。エキスパート軌跡だけを抽出し、セットアップを標準化し、 ノイズを含むデータは事前に捨てる――といった発想である。
これに対しAxisの仮説は正反対だ。データ品質は「単一軌跡」ではなく 「分布」で決まるというものだ。十分に大規模で多様な群集が ノイズを含むサブオプティマルな軌跡を生成しても、 その誤差が互いに相関していなければノイズは平均化され、 学習を通じて有効なポリシーが残る、という立場だ。
Axis Sim Dataset V1は、この仮説を公開の場で検証するためのものでもある。 軌跡にはピッキング&プレース、積み上げ、液体注ぎ、 可動オブジェクトの操作、ツール使用などが含まれ、 いずれもAxisのブラウザベースのテレオペレーション基盤「Axis Hub」を通じて、 限られたエキスパートチームではなく分散した群集から収集された。 データセットの構築には、UCバークレー、ジョンズ・ホプキンス大学、 ミシガン大学などの研究者も協力している。
スケールする成果
タスクスイートLIBERO-Plus上の検証では、V1を用いた継続事前学習により、 π0.5の成功率は83.9%から88.8%へと上昇。 同一ボリュームのRoboCasa365ベースライン比で37.3%上回った。 性能は、V1データの利用率を25%から100%まで増やすにつれて一貫して向上し、 サチュレーションは見られていない。 これは、一時的なゲインではなく、多様性とカバレッジの拡大が 性能向上の源泉であることを示唆する。 特に、カメラ、センサーノイズ、レイアウトの摂動といった、 まさにAxisが生成過程でランダマイズしている軸で最大の改善が確認された。

チームによれば、すでにV2の開発も進行中で、 120万軌跡、1,200タスク規模への拡張を予定。 複数エンボディメント間での汎化と、複数のVLAモデルにまたがる結果を通じて、 サブオプティマルなシミュレーションデータがロバストなポリシーを学習可能であることを 実証する構えだ。
データセットを支えるエンジン
V1は、より大きな「複利型データエンジン」から生まれた成果の一部にすぎない。 従来型のデータベンダーが、あらかじめ定義した仕様に沿って収集を終えるのに対し、 Axisはモデル性能と失敗ケースを起点に 「次に何を集めるべきか」を決め、各学習ラウンドを次ラウンドの設計に反映させる。 このエンジンは4つのデータラインを組み合わせたハイブリッド戦略で動いており、 いずれもすでにスケールしている。
シミュレーション: Baseチェーン上のトップ3 dAppの一つとなったAxis Hubを通じ、 20万超の分散コントリビューターが参加。 13種類のエンボディメントにわたり、470万本超の軌跡を生成。
エゴセントリック: 品質管理訓練を受けた1,000人超のフルタイム収集者ネットワークが、 実在する住宅や事業所での一人称視点の行動データを取得。 14業種にまたがる20万時間超を既に蓄積しており、 1日あたり4,000時間超のペースで増加中。 手指ポーズはViconで検証されている。
Loco-manipulation: Unitree G1やBooster T2といった実機ヒューマノイドを用い、 ハードウェア非依存のテレオペレーションにより、 移動と巧緻動作を組み合わせた500時間超のデータを蓄積。
Human-gated DAggerポストトレーニング: 本番展開時のエッジケースを対象に、 人間がループ内で修正を行うDAgger手法で500時間超を確保。
すべてのタスクと軌跡は、出自を明確にするためBaseチェーン上に記録され、 コントリビューターは品質が検証された分だけ報酬を受け取る仕組みだ。
オープンデータから商用展開へ
Axisはシミュレーションデータのオープンソース化にとどまらず、 ロボットエンボディメント企業と直接組み、個別エンボディメントに最適化した データパイプラインとモデルプライアを構築している。
Booster Roboticsにとっての初のシミュレーションデータパートナーとして、 Axisは同社の実機ワークスペースをタスク整合性の高いデジタルツインとして再構築。 分散コントリビューターにより4万2,000エピソード超のシミュレーションを収集し、 Booster専用モデルプライアへと蒸留した。 その結果、わずか30件の実機デモだけで成功率87.5%を達成。 汎用π0.5モデルの37.5%に対して大きく上回り、 実世界デモ数を半減させながらπ0.5相当の性能に到達した。
ほかにも、エンボディメント企業ではFeagine Robotics、 モデル企業ではManycore TechやDexmal、 産業オートメーションではLotus CarsやGeely Autoなどがパートナーとなっている。 また、Solana上のBitRobotやBittensor上のOpenRobotoといった オンチェーン・ロボティクスネットワークにもデータを供給している。
物理AIのデータ基盤を再定義
「物理AIの未来は、一度ダウンロードして終わりの静的なデータセットではありません」 とAxis Robotics創業者のChris Feng氏は語る。 「モデルが『次に必要とするデータ』を継続的に生み出すエンジンです。 スケールは広いカバレッジを与え、多様性はノイズの偏りを防ぐ。 閉ループにより、すべての失敗が次の前進に変わる。 そうして複利が効いていくのです」。
Axisは、UCバークレー、カーネギーメロン大学(CMU)、 ジョージア工科大学(Georgia Tech)、上海交通大学(SJTU)出身の研究者と、 3,000万ユーザー超のコンシューマープラットフォームをスケールさせた 連続起業家によって設立された。 研究面では、Georgia TechのJiachen Li助教授がアドバイザーとして名を連ねる。
論文リンク: https://arxiv.org/abs/2607.21588
プロジェクトページ: https://axisaiorg.github.io/AXIS-V1/
データセット: https://huggingface.co/datasets/axisrobotics/Franka-Dataset
Githubコードベース: https://github.com/AxisAIOrg/Axis-V1-Training
